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月刊コラム

2015年2月 旅券返納と取材の自由

 シリアに渡航しようとした新潟県在住のフリーカメラマン(58)が外務省からパスポートの返納を求められ、これに応じた出来事が「渡航の自由」「報道の自由」と絡んで論議を呼んでいます。

 顛末をご存知の方も多いと思いますが、このカメラマンは地元の新聞社の取材に、シリアに行って取材をする計画を語りました。この記事でカメラマンの計画を知った外務省は、再三、渡航を思いとどまるように説得しましたが、これに応じなかったため、「旅券(パスポート)の名義人の生命、身体または財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合に、パスポートの返納を命令できる」と定められた旅券法19条に基づき、パスポートを返納させました。

 これに対して、フリーカメラマンは「SIL(イスラム国)の支配地域には入らない。難民キャンプなどを取材する予定だった」「過去にもシリアとイラクの紛争地帯での取材経験があり、危険回避には十分、気をつけている」と弁明、「渡航と報道の自由はどうなるのか」と語っているそうです。

 議員会館で集会を開いた社民党の福島瑞穂氏は「集団的自衛権の行使が法律上認められ、後方支援をするようになった時に政府が戦場や戦場近くの取材をさせないために、パスポートの返納を命ずることも起きてしまうのではないかと危惧している」とのコメントを公にし、さらに一部のジャーナリストからは「取材活動への締め付けを感じる」などの声も上がっています。

 果たしてそうでしょうか。まず「渡航の自由」です。確かに憲法22条には「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」と定められていますが、それには「公共の福祉に反しない限り」との制約がついています。4段階ある危険情報のうち、最高レベルの退避勧告が出されているシリアではどんなことが起きても不思議ではありません。万一、拉致されれば大勢の人が不眠不休で救出に携わり、多額の経費が費やされることになります。拉致された人だけの問題ではなくなるのです。

 次に「報道の自由」についてです。報道の自由は私たちの知る権利を担保するものです。多くのジャーナリストが公権力と戦い、勝ち取ってきた権利なのです。ベトナム戦争ではたくさんのジャーナリストが戦場で取材し、戦争の悲惨さを訴えてきました。しかし、今回の出来事を「報道の自由への侵害」と決め付けるのは多くの疑問が残ります。

 この時期にシリアに渡って戦場取材をする計画を明らかにすれば、それだけで大きな話題になります。真にシリアで取材をしたいのなら黙ってトルコまで行き、そこでシリアに入国する手段を探すはずです。新聞の取材にわざわざシリアへの渡航計画を明らかにすること自体、カメラマンのパフォーマンス、ばかばかしい売名行為と切って捨てる論調も見られます。

 憂慮すべきは、旅券を返納したカメラマンの言動が却って「報道の自由」の価値を損ねているのではないかということです。売名行為と疑われているカメラマンが声高に「報道の自由への侵害」と叫べば叫ぶほど、「報道の自由はそんなに軽いものではない」という気持ちが強まります。

 この出来事は外国でも報道されましたが、「政府の措置はやむを得ない」という反響が多かったそうです。シリアでの戦闘の模様、人々の苦しみはさまざまな媒体を通して伝えられています。軽はずみな行為で多くの国民の心を痛めることは厳に慎んでもらいたいものです。

 

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