あと5か月後に迫っていた2020東京オリンピック・パラリンピックが新型コロナウイルスの世界的な流行のあおりを受けて延期になりました。安倍首相とバッハ会長の会談を踏まえて、IOC(国際オリンピック委員会)が決めました。改めて来年7月の開幕が検討されているそうです。選手、観衆の健康を守るために止むを得ない決定だと思います。
中国湖北省武漢市に端を発した新型コロナウイルス感染は瞬く間に世界中に広がり、WHO(世界保健機関)はパンデミック(世界的大流行)と断じました。外国の通信社が29日午前4時現在でまとめたところによりますと、183の国・地域で計64万770人が感染し、死者は3万人を超えたということです。国内では28日現在で1499人が感染し、49人の方が無くなりました(クルーズ船関係は除く)。各地でクラスターと呼ばれる集団感染が相次ぎ、県内でも東庄町の障害者福祉施設で入所者と職員58人の感染が判明しました。
当初、インフルエンザウイルス同じように、気温が高くなれば活動が鈍るのではと期待されていましたが、気温、湿度ともに高いシンガポールなどの東南アジアでも感染が広がっており、どうも期待薄のようです。世界中の医療関係者がこのウイルスを撃退するため、既存の薬品の効果確認、治療法の探究に全力を挙げていますが、もう少し時間が必要な状況です。
このような情勢の中で、2020東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まりました。致し方のない措置ではありますが、これに伴って、さまざまな問題が持ち上がっています。組織委員会にとって最も頭が痛い問題の一つが開催経費の増大の問題でしょう。大会予算として組織委員会、東京都、政府合わせて総額1兆3500億円が計上されていましたが、1年程度の延期によってかなり膨れ上がることが予想されます。競技場などの施設の維持・修理の費用や競技団体の再準備費用などによる経済的損失が6400億円あまりに上ると試算する識者もいます。
開催延期の影響は本県にも重くのしかかります。幕張メッセでレスリングやテコンドー、フェンシングなどが行われ、一宮町の釣ヶ崎海岸ではサーフィン競技が予定されていて、県はオリンピック開催経費として総額180億円を見込んでいました。1年間の開催延期でいったい、どれほど膨れ上がるのでしょうか。
会場問題も大きな課題です。会見した森田知事によりますと、今年に予定されていた大会開催のために、約370社の利用を断ったり、他の期間に移してもらったそうです。それがいきなり白紙になってしまいました。替わって来年の会場確保の問題が持ち上っています。来年、展示会場として幕張メッセを考えていた企業・団体も多く、それが出来ないとなると、大きなダメージを受ける企業も少なくないでしょう。
平成30年の2月定例県議会予算委員会で、この問題を取り上げました。中小企業にとって、世界中からお客が集まる展示会に出展するというのは、まさに中小企業が生きる場であり、それが中止となると、倒産の危機に直面する企業も現われるでしょう。さらに問題なのは、それまで幕張メッセで毎年、開催されてきた展示会が中国や香港、シンガポールなどで開催ということになり、それがそのまま恒例となってしまうことです。せっかくのお得意様をみすみす逃すことになるのです。
様々な課題が生じる今回の2020東京オリンピック・パラリンピックの開催延期ですが、懸念されていた中止でなかっただけまだ良しとしましょう。延期の報を受けて、「準備期間がもう一年できた」と前向きなコメントを語った選手がいました。私たちも大会開催を待つわくわくした気持ちが1年間長く続くことになったと考え、スポーツの祭典がなんの憂いもなく開催できるように、まずは新型コロナウイルスの撃退に世界中の人々と力を合わせることにしましょう。